会議室を出て、森で一緒に作業し、対話する。そんな企業研修は、どのように実施されているのでしょうか。公表事例を読むと、社有林の活用、森林整備、地域への理解など、企業ごとに異なる狙いが見えてきます。企画の入口は「森なら効果が出る」と考えることより、研修の目的と体験を結びつけることにあります。
出典確認日:2026年10月28日
森林サービス産業の中で考える
林野庁は、森林空間を健康、観光、教育などの分野で利用する森林サービス産業を紹介しています。木材の生産に加え、森林で過ごす体験にも仕事の可能性を見いだす考え方です。[1]
企業研修は、その具体的な利用方法の一つです。ただし、健康づくり、相互理解、地域を学ぶことは、別々の目的です。何を目指すかによって、活動の選び方も成果の確かめ方も変わります。
TDKラムダの社有林を使った研修
林野庁の事例資料によると、新潟県長岡市のTDKラムダは、2016年から社有林の整備に着手し、2023年に社有林を使った人材育成研修を本格的に始めました。2023年の若手社員研修には11人が参加しています。
資料では、森林での散策や呼吸、対話などを取り入れ、チームビルディングやストレスマネジメントを目的とした取り組みが紹介されています。[2]
ここから考えられるのは、森に場所を移すだけでなく、目的に合わせて体験を組み立てる重要性です。すでにある社有林を使う場合にも、整備や運営を担う人との連携を企画に含める必要があります。
伊藤忠商事の創業地に根ざした研修
伊藤忠商事についての林野庁資料では、三重県伊賀市の「創業者の森」を活用した研修が紹介されています。2023年からの取り組みで、2025年度は12回、合計490人が参加したと報告されています。
新入社員研修では、森林整備や地域を学ぶ活動などが組み合わされています。人数や実施回数は、取り組みの規模を知る情報です。[3]
この事例を企画の参考にするなら、「地域の歴史や会社の価値観を、どの体験と結びつけるか」という問いが役立ちます。同じ作業を別の森で再現しても、学びの文脈まで同じになるとは限りません。
実施事例と効果の実証を分けて読む
林野庁の利用事例一覧は、研修の目的や期待する効果を項目として整理しています。これは、比較実験によってすべての効果を確認した一覧ではありません。[4]
「実施できた」「満足した」「職場での行動が変わった」は、別々の段階です。参加人数が多くても、それだけで生産性の向上はわかりません。参加者の感想は大切ですが、対照群のないアンケートから森だけの影響を切り分けることもできません。
したがって、事例は企画の可能性を考える材料として読み、自社で期待する成果は別に確かめる設計が必要です。
小さく始める研修設計の例
たとえば「部署を越えて相談しやすくなる」を目的にするなら、次のような構成が考えられます。以下は編集部による企画例であり、実施済みのプログラムではありません。
- 開始前に、参加者が普段相談するときの困りごとを振り返る。
- 現地の指導者と安全にできる共同作業を選び、役割分担を話し合う。
- 作業後に、誰のどんな関わりが役立ったかを言葉にする。
- 職場で試す行動を一つ決め、数週間後に実行状況を振り返る。
評価も目的に合わせます。直後の満足度に加え、参加前後で同じ問いを使う、後日具体的な行動を尋ねる、といった方法です。それでも、他の研修や職場環境の変化が影響し得るため、前後の差をすべて森林研修の成果とは扱わないようにします。
身体を動かすことや個人的な悩みの共有を一律に求めず、別の参加方法を用意することも、運営上の検討事項です。
地域に仕事が残る予算を考える
受け入れ地域との相談では、当日の講師料だけでなく、下見、事前の整備、教材づくり、雨天時の対応、実施後の振り返りまで含めて見積もりを確認したいところです。森林所有者、現地の案内人、研修設計者の役割も、あらかじめ整理すると進めやすくなります。
次回も受け入れられる体制をつくれるか。参加者は職場で何を試せるか。この二つを具体化していくことで、森での一日を、地域にも企業にも意味のある仕事へつなげられます。
出典と参考資料
1. 林野庁「森林サービス産業」。
2. 林野庁「企業等による森林サービス産業の活用事例 TDKラムダ」(PDF、1ページ)。開始時期、参加人数、活動内容を参照。
3. 林野庁「企業等による森林サービス産業の活用事例 伊藤忠商事」(PDF、1ページ)。実施場所、開始時期、2025年度の実施状況を参照。
4. 林野庁「企業等による森林サービス産業の活用事例」。
企業の紹介部分は公開資料に基づき、独自取材によるものではありません。研修設計・評価・予算についての提案は、掲載事例の実施内容と区別しています。